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美加 五十嵐

朝日新聞と東京新聞に載ったコメントの補足

更新日:2020年3月20日


午前中にアップしたコメントでお約束した「補足」に入る前に、今回、検定の対象となった教科書について2つほど指摘しておきたいことがあります。

まず、そのページ数です。5年生用、6年生用、巻末の資料の類を除いて、それぞれ100ページを超えます。なかには150ページ規模のものもあります。イラストもたくさん入っていますし、「文法は教えない」ということになっていますし、電子教具などを使って先生は先生は操作をするだけでも済むような工夫も施されていますし、ということで、《大丈夫ですよ!》と言う人もいます。朝日新聞にわたくしのものと並んでコメントが載っている、立教大学の松本茂さんも「絵やリスニング素材が多く、活動もたくさん。教科書としては9割方はこれでいい」とおっしゃっています。小学校の先生がたのご意見を聞きたいですね。

今回は7社の教科書が検定を通ったのですが、総じて、文科省が作って、現在、使われている「新学習指導要領対応小学校外国語教材」のWe Can! 1 & 2にいろいろな点でよく似ています。もちろん、各社それぞれの工夫の跡は見えるのですが、意気込みというか、志というか、そういうものが少なくともわたくしにはあまり感じられません。《あまり冒険はしたくない!》というところが本音でしょうか。

朝日新聞に載ったコメント: [大津は]「『読む・書く』が加わり、単語数や文型も多く、先生も子どももこなしきれないのではないか」と語り、「英語教室や塾で学ぶ子と、学校だけの子の間での英語への慣れの二極化が、さらに広がるだろう」と懸念する

補足: A1 語彙数は600~700語程度ということであるが、それだけの語彙を定着させるということになるとかなりの時間とエネルギーが必要となる。《いや、定着などさせなくていい。ただ、聞いて、それなりにまねができればいいのだから》というのだろうが、聞き取りと模倣のためにはあたまの中に音声に関する網目が形成されている必要があり、その形成を支援するためにはきちんとした、音声学の知識と技術、そして、関連する指導技術が必要となる。それができる教員がどの程度、育っているのだろうか。入門期をあなどってはいけない。

A2 いろいろな構造を持った文が登場するが、文法は教えないのだから、子どもたちにとってはたくさんの「文型」を使いこなせなくてはならなくなる。この点についてもA1同様、《いや、使いこなせなくてもいい。ただ、聞いて、それなりにまねができればいいのだから》ということになるのだろう。そうなると、今度は中学英語との接続をどうすればいいのか、文構造については中学校で一から始めるということになるのか。よくわからない。

A3 後半部の原案は「子どもたちの英語力は今も英語教室や塾で学ぶ子と、学校だけの子の間で二極化しているが、さらに広がるだろう」となっていたのだが、このままだと、「英語教室や塾で学ぶと英語力がつく」という前提を許容してしまう。「英語への対応力」なども考えてみたが、最終的には、(満点ではないが)「英語への慣れ」ということにした。

東京新聞に載ったコメント: 「母語の能力が十分育っていない時期に外国語を学ぶ影響を案じる見方もある」としたうえで、わたくしの「子どもの思考力が落ちており、基礎となる日本語をしっかりと形成する方が先。話せても中身のない英語になる」

補足: T1 この辺りの話をすると、たいてい、《大津は小学校英語が母語の発達に悪影響を与えると考えている》という反応がでる。そうではない。母語は週に数時間の外国語の授業によって影響を受けるような軟なものではない。また、《大津は小学生が外国語に触れることはよくないと考えている》という反応も多い。これもそうではない。むしろ、小学生が外国語に触れることは望ましいことであると考えている。その外国語が英語に限定され、まわりのおとなも「英語ができると将来、得するよ!」と実利をあおる、そこが問題なのだ。

T2 中途半端な英語の授業を導入するなら、本格的なことばの授業を展開するようにしてほしい。それにはまず、直感がきく母語を使って、ことばへの気づきを育成し、それを使って、本格的な英語学習へ向かうべきだというのがわたくしの年来の主張である。「母語を使って」と言ったが、その過程で外国語に触れることもいいだろう。また、「外国語」だけでなく、自分が持っている言語体系とは異なった体系を持つものという意味で、日本語の方言を使うことも大いに意義があるだろう。そう言われてもイメージがわかないという方々のために、近々、仲間の先生たちと作った『日本語からはじめる小学校英語—ことばの力を育むためのマニュアル』(開拓社)という本を出す予定である。

T3 ことばというのは思考を支えるという重要な役割を持っている。《「英語ができると将来、得するよ!」と実利ばかりあおっていると大切な母語の力を活かしそこなってしまいますよ!》というのが最後の部分に込めたメッセージである。

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