以下の文章は昨年12月25日に認めたものです。4回に分けて掲載します。なお、(2)以降に掲載されている写真は近江さんのご好意により提供いただいたものです。無断転載はご遠慮ください。
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オーラル・インタープリテーション・フェスティバルに参加して
大津由紀雄
2010年12月25日
12月11日の土曜日の午後、名古屋の南山短期大学(通称、「南短」)で開催されたオーラル・インタープリテーション・フェスティバルに聴衆として参加した。
南山短期大学は来年の4月に南山大学短期大学部として再編成され、現在いまなかにあるキャンパスから南山大学のキャンパスに移転する。加えて、南短のオーラル・インタープリテーションの伝統を築いた近江誠さんが今年度末をもって定年でご退職となる。この2つの理由から南短のオーラル・インタープリテーション・フェスティバルの伝統も今回を以て閉じられることになる。
なぜオーラル・インタープリテーションの専門家でもないわたくしがわざわざ名古屋まで出かけてこのフェスティバルに参加したのか、いぶかしくお思いの方も多いだろう。そのきっかけは、一昨年の秋、南短で小学校英語についての講演を依頼されたことにさかのぼる。その講演を引き受けた理由の一つは、『感動する英語!』(文藝春秋)などの著作を読み、一度お会いしたいと思っていた近江誠さんの勤務校であったからだ。
実際にお会いした近江さんは書き物や経歴などから想像していたイメージとは異なり、照れ屋で、物静かな紳士であった。想像どおりだったのは、英語教育やオーラル・インタープリテーションについて強い信念をお持ちであることと酒がお好きなことであった。
こうして知遇を得ることができた近江さんに再会したのは、去年の秋ごろ、中京大学で講演をした折であった。そのときのレセプションで、近江さんは2011年3月で南短をご退職になること、その直前の12月に南短での最後のオーラル・インタープリテーション・フェスティバルを開催することをお話しくださり、ぜひ見に来てほしいと伝えられた。もともと、英語のスピーチやディベートをやっていたこともあるので、時間の都合がついたらぜひうかがいたいとご返事した。今回の参加はそのときの約束を果たすためである。
オーラル・インタープリテーションについて簡単に解説しておこう。まず必要なのは素材である。これは言語で表現されたものであれば、なんでもよいのであるが、文学作品や演説などが選ばれることが多い。素材が決まったら、その素材の解釈(インタープリテーション)をする。まずは、素材を言語的にきちんと分析することから始める。そして、その素材に盛り込まれた著者の気持ちや主張を読み取っていく。ここまではだれでもなんらかの形で体験するところだろう。
オーラル・インタープリテーションでは、読み取った解釈を口頭で(オーラル)表現するのである。ならば、劇と同じではないかと思われるかもしれない。確かに劇の場合と重なる部分も多いのだが、劇とは違い、主眼はあくまで口頭表現そのものに埋め込まれた解釈にあるので、必ずしも衣装を纏う必要はない。また、複数の人物によるやりとりの場合も、劇とは違い、壇上の人物同士のやりとりよりも、壇上の人物のひとりひとりが聴衆に直接訴えかける形をとることが基本である。
オーラル・インタープリテーションは外国語教育/学習の方法としても有効である。近江さんの実践はまさにこの点に立脚したものである。
その他、書き始めるといろいろと思いつくことがあるのだが、ここまでの文章で多少とも興味を覚えていただけたら、ぜひ近江さん自身の著作である『オーラル・インタープリテーション入門—英語の深い読みと表現の指導』(大修館書店)に赴いていただきたい。
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