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執筆者の写真大津由紀雄

ESAT-J --- 実施の実態

生徒、保護者、教員、研究者、議員、一般社会人など多方面からの反対の声を押し切って、2022年11月27日に中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)が実施されました。


[1]試験実施上のトラブル

11月28日22時08分配信のTokyo MXのニュースによると、小池百合子東京都知事は「大きなトラブルはなかった」とコメントしたそうです。また、東京都が11月27日19時現在の「速報」として伝えた「中学校英語スピーキングテスト(11月27日実施分)実施状況」によると、「トラブル等の報告例」として「欠席連絡の受付電話の回線が混みあって、つながりにくくなった時間がある」と「会場を間違えて、遅刻した生徒がいた」の2点が挙がっていますが、試験の実施そのものについてのトラブルは報告されていません。


一方、「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の都立高等学校の入学者選抜への活用を中止するための東京都議会議員連盟(略称、英スピ議連、会員42名の都議会議員)」がネット上で実施した「実施状況調査」には12月1日18時現在で457件の回答がありました。そのうち、中学3年生がその6割、保護者がその3割を占めると報告されています。


今回の試験は前半組と後半組の2グループに分けて実施されましたが、待機中に別のグループの解答音声が聞こえてきたという指摘が多数ありました。加えて、試験中にイヤーマフをしていたにもかかわらず他の受験生の解答する声が聞こえてきたという報告もかなりありました。さらに、試験を終えた前半組とそのあと試験を受ける後半組みがトイレなどで接触の機会があったという指摘もありました。


現在、英スピ議連や保護者の会などが、その裏づけ調査を行っていますが、こうしたトラブルの報告が複数、それもかなりの数なされているところから、こうしたことが実際に起きたのではないかと考えるに十分足りると言うことができます。


上記は生徒および生徒からの報告を受けた保護者、教員による指摘ですが、東京都教育委員会はその場に居合わせた監督者たちからの意見聴取も含めた調査を迅速に行うべきです。


阿部公彦氏、鳥飼玖美子氏、南風原朝和氏、羽藤由美氏と共に10月14日付で、ESAT-Jの結果を都立高校入学者選抜に使用しないことを求めた「要望書」を東京都教育長および教育委員宛に提出していますが、その中に記した「円滑な試験運営ができない可能性が高いこと」という懸念が現実のものとなってしまいました。入学者選抜の公平性という観点から見過ごすことはできません


[2]学習指導要領逸脱の問題

ESAT-Jに関するQ&Aが東京都教育委員会のウェブサイトに公開されています。

その回答のなかに、「ESAT-Jは、中学校学習指導要領に基づき、東京都が定めた出題方針により、出題内容を決めています。したがって、授業で学習した範囲の中から出題します」と明記されています。


ところが、今回のPART AのNo. 2(音読問題)に「Do you drink tea? You may have seen that there's a new tea shop next to our school.(後略)」という一節が出てきます。このうち、下線を付した部分の表現は中学校で学ぶ範囲を逸脱しています。この点を指摘してくれた久保野雅史さん(神奈川大学教授)は、たとえば、As (many of) you know, there’s a new tea shop next to our school.とすれば、中学校で学ぶ範囲の英語で無理なく表現できることも示してくれました。


念のために急いで付け加えておきますが、may have seenという表現形式は未習であっても、これは音読の問題であり、may、have、seenが既習であるのだから特段問題はないというのは反論になりません。音読するためにはその英文の成り立ちが理解できていることが必要だからです。


久保野さんは入試問題作成者や教科書執筆者には学習指導要領を逸脱しない範囲の英語表現を使うスキルが求められると言います。当然のことです。知り合いの出版社の人は学習参考書を出版する会社の人間ならだれでもこうしたことには神経を尖らせるものだと驚いていました。


東京都教育委員会が問題の作成と点検にどう関与したのかは定かではありませんが、明らかに慎重さを欠いており、重要な問題です。加えて、時系列に従って解答していくスピーキングテストの最初の部分(PART A)でこのような問題が生じたことが受験生に与えた影響を考えると、ことの重大さはこの問題を採点から外すといった処置で対処できる中途半端なものではありません。


なお、この点については「Hoarding Examples(英語例文等集積所)」というウェブサイトにも同様の指摘があります。


[3]欠席者の問題

第1節で触れた「中学校英語スピーキングテスト(11月27日実施分)実施状況」によると、今回の申込者数は約76,000人で、そのうち、実際に受験したのは約69,000人ということです。


都内の公立中学校に在籍する中学3年生は約8万人ですから、申込者が約76,000人ということは4,000人が申し込みすらしていないということになります。《いや、中3のうち、都立高校を受験しない生徒もいるから》というのはおかしな話です。ESAT-Jはあくまでアチーブメントテストであって、その結果を都立高校入学者選抜に使うというのは二次使用に過ぎないからです。


加えて、今回、さらに7,000人の欠席者が出たことにも注目する必要があります。申し込み者の1割弱が欠席したことになるからです。約80,000人という全体母数という観点から言えば、今回の受験者数である約69,000人はその86%にしかなりません


今回申し込みはしたが欠席した約7000人のうち、何人ぐらいが体調不良などによる、やむを得ない欠席であったのか、また、何人ぐらいが確信犯的な不受験者であったのかは追試験及び再試験の受験申請状況(12月2日午後2時締切)を見ればある程度判断することができます。注目したいと思います。


[4]最後に

ESAT-Jは実施されてしまいましたが、その結果を都立高等学校の入学者選抜へ利用することを中止させることは今からでも可能です。上に指摘した3つの問題のどれをとっても、東京都の準備不足は明白です。不公平で、不公正な試験の結果を受験生たちの将来に重要な影響を与えかねない入学者選抜に利用することはあってはならないことです


英スピ議連は12月5日(月曜日)17時30分から都庁第一本庁舎5階の記者会見室に於いてESAT-Jの実施調査の結果を踏まえた記者会見を予定しています。また、「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」も、「都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会」の協力を得て、12月7日(水曜日)15時から日本記者クラブ会見場(日本プレスセンタービル9階)での記者会見を予定しています。


これまで数回にわたり、東京都教育委員会に対して公開質問状を送付してきた「入試を考える会」の代表を務める大内裕和さん(武蔵大学教授)は東京都の対応が誠意に欠けることを嘆いておられましたが、わたくしもまったく同じ思いです。ことしの流行語大賞に選ばれなかったのが不思議でならない「丁寧に説明する」を幾度となく繰り返し、問われたことに直接答えることを避け続ける対応はおよそ教育に関わる者がとってはならない態度です。


ことここに及んでは、これまで以上に多くの方々が声を上げることしか道は残されていません。英スピ議連による「ESATJ実施状況調査」はまだ継続しています。

また、SNSやマスコミ(たとえば、新聞投書欄)を使った意見の開示と情報の拡散をお願いいたします。


【緊急付記】

本文に書きました「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」が「都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会」の協力を得て開催する記者会見において、生徒・保護者による証言動画が紹介されるそうです。ひょっとしたらご自身やご自身のお子さんが不利益を被るかもしれない立場にありながら、ESAT-Jに対する意見を発信し続ける保護者のみなさんには日頃から敬意を抱いていますが、生徒・保護者を「証言動画」の公開という事態にまで追い込んでしまったことに強い衝撃を受けています

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